性別に左右されない保育業務への理解と現場の保護を求めることについて陳情
受理日:令和5年11月24日
陳情05-18
付託委員会:子育て・若者支援特別委員会
付託日:令和5年11月24日
審査日:令和5年12月4日
議決日:令和5年12月19日
議決結果:趣旨採択(賛成多数)
陳情5−18(写)
性別に左右されない保育業務への理解と現場の保護を求めることについての陳情
2015年に国連で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)には『5:ジェンダー平等を実現しよう』という目標があります。それ以降、女性差別を無くそうといった主張が数多く訴えられておりますが、性差別に悩んでいるのは女性だけではありません。保育士はかつて『保母』と呼ばれていた時代もありましたが、ジェンダーで固定化するような呼称は見直されたことで『保育士』という呼称が一般に定着しました。しかし、男性の保育士の数は全体の5%程度に留まっており、保育の現場においての男性はマイノリティに属します。職業マイノリティにある男性保育士には数々の偏見の目が向けられているのが事実です。実際に、女性保育士の行った児童の排泄介助で疑惑の目を向けられる事態となることがありました。男性保育士は全く関係のない出来事に対しても性的虐待を疑われるのです。また、男性保育士であるが故、排泄介助の業務を禁止するといった命令が発せられることも少なくありません。これらは性別を起因とする偏見の目が向けられたことは明らかであり、男性保育士にとっては職場での人権保護という観点から重要な問題があると考えます。これは対応する保育士の性別によって受け取り方に大きな偏りとなりうるというジェンダー問題、男性差別と認識されるのではないでしょうか。現状の公立保育園における職場環境、並びに業務に対する理解を考えると、男性保育士に対する性差による偏見・誤解への配慮、また職務に対する人権の確保が徹底されているとは言えません。
保育士の業務には子どもの着替えやオムツ替え等日常介助が含まれます。これは保育士の仕事だけでなく、医療、介護現場でも同一に行われていることで、昨今では同性介助を推進する声も少なくありませんが、保育士の性別の比率は先でも触れた通り大きな差があるのが現状です。また、保育の基本となる保育所保育指針には、「子どもの性別などによる固定的な意識を植え付けることのないように」と、記載されています。これは性別の差で子どもの行動を狭めたり、子どもに差別感を与えたりすることのないようにということです。加えて、子どもの愛着関係は生活介助の中で育まれていきます。家庭でご飯を食べさせてもらったり、オムツを変えてもらったりすることで、お世話をしてくれる人、不快を取り除いてくれる人と信頼を寄せていくのと同じように、それが保育園でも同じように行われていくことで安心して生活することができるのです。これは保育士が業務にあたる上で求められる役割として理解されるべき専門性ではないでしょうか。本来子供にとって必要な日常介助が、保育士の性別によって業務に支障をきたすことは望ましくありません。また、本来第一に考えられるべき『子どもの最善の利益』が抜け落ちています。
本当に子どものことを思うのならば、以下のような対応が望ましいと考えます。
乳児:上記にも記載する通り、生活介助が愛着関係を育むのに最重要であり、保育園で安心して生活する上で生活介助は必要不可欠です。
幼児:目安として3〜4歳で異性の認識が理解でき、4〜5歳で羞恥心が芽生えると言われています。子ども同士もお互いの違いを尊重できるよう、発達の成長に合わせてプライベートゾーンについて子どもに教えていく。子どもが異性の介助を負担に感じていると判断した場合は、保護者に説明して同性介助の方針をとる。
つまり保育士の業務を性別によって制限するのではなく、子どもの思いが反映され配慮されるべきであるということです。これには自分の意思を発せない乳児にとって、保護者が代わりに意見するのが当然という声もあるかもしれませんが、当然業務にあたれない理由についても理解できない年齢の子に対して、一方的に愛着を放棄する行動はその子の安定した人格形成に影響を与えると考えます。本来するべきはその子にとってどうする事が良いのかを議論した上で行われる配慮です。
医療、介護現場では、業務の提供にあたり状況によって異性介助が行われる場合が事前に説明され、同意書のサインが求められますが、台東区公立保育園では申込時にも、入園決定時にも、入園説明会時にも公としてこのような説明や同意は無く、全てが現場、個人に委ねられています。保護者から男性保育士に生活介助をしないでほしいと話されれば、組織はリスクマネジメントの観点からクレームに繋がらないように男性保育士の介助を禁止する、こういったことが短絡的に選択されてしまいます。しかし、ここで事前に保護者に保育の専門性について理解が得られていれば、議論のスタート地点がその子にとってどのような配慮が望ましいのかフラットに考えることができるのではないでしょうか。先でも挙げましたが大事なものは『子どもの最善の利益』です。組織と保護者どちらかの一方的な決めつけではなく、子どもをまんなかに考える姿勢を持つべきです。組織、保護者、そして、その子どもを保育する保育士の3者が、その子の最善を考え協調する、それを理想と考えます。そのためには、保護者に正しい理解と同意を組織が責任を持って推進することが必要です。
男女共同参画社会基本法が制定されて24年が経過した令和の時代、当時の子供達が親になる世代となり、未だに根強い性別役割分業の考え方があります。これは子ども時代に子どもを取り巻く環境が培ったものであるといっても過言ではありません。今の子どもの価値観を培っていく環境として保育園も大きな影響を及ぼしているのではないでしょうか。子育て全ての役割を当たり前のように男性も行うようになり、今後20年、30年先の真のジェンダー平等を実現する為には、今の子育て世代の価値観や固定概念を押し付けることなく、女性も男性も同じように子どもを支えていくと、その姿勢を区として発信していくことは最重要課題だと思われます。
台東区はSDGs(持続可能な開発目標)『5:ジェンダー平等を実現しよう』を区として発信し、「東京都台東区男女平等推進基本条例7つの基本理念」にて、『3、性別による差別的取り扱いや暴力を根絶すること 6、教育の場において、男女平等意識の形成の取り組みが行われること』と掲げています。それが保育の現場で適切に遂行されているのか、是非とも御検討いただき、性別に左右されない保育業務への理解、保育現場の保護について話し合っていただきたく、下記3点を陳情いたします。
陳情趣旨
1台東区の保育現場において、性別に関係なく、基本的人権が守られること
2保育の専門性の理解を深めていただき、その重要性を台東区として発信すること
3台東区として入園時・保育提供開始時に保育士の専門性について保護者への理解・同意を得られるようにすること
令和5年11月13日
台東区議会議長
森 喜美子 殿